今夜は三井記念美術館で「茶の湯の陶磁器」展を鑑賞した後、5時過ぎの往訪である。
茶碗、花入・水指、茶壺・茶入、香合など名品が並んでいるのだが、その中に茶道具とは直接関係が無い円山応挙の画「海眺山水図」があった。
三井記念美術館の円山応挙の画といえば、国宝の”雪松図屏風”が有名だが、今回は国宝でも何でもないフツーの画である。
そのときふと思った。
「円山応挙も最初から画が上手かったわけでは無く、段々上手くなったんだろうな。でもきっとあるとき、”俺も画が上手くなったな”と思ったときがあったんだろうな。」
芸でもスポーツでも、上手くなろうと思って努力している人にはそういう”時”が訪れるだろうが、果たして寿司竜のマスターはどうだろう。”俺も包丁が上手くなったな”と感じた瞬間はいつであったろうかなどと思いながら寿司竜に到着すると、まだ開店間もないこともあってお客様は誰も居ず、マスターだけが呆けた顔でカウンター内に突っ立って、玉子焼きをつくる準備をしている。
着座するとまもなく電話が鳴りマスターがとるが、いつものボクシングに超詳しい方からで、「ボクシングに超詳しい方が、今夜数名で来店の予約だったんですけど、一部の方が熱を出してこれなくなって、結局は二人でこれからいらっしゃるんですよ」とのこと。
「それは大変ですね。でも熱といえば、このコロナで悲惨な目にあっている会社や業界の方もいると思うんですけど、シロアリの皆さんは大丈夫なんですよね」と心配してマスターに聞くと
「大丈夫も何も、シロアリ連中の会社は元々傾いているんで、これ以上傾きようが無いですよ。全く心配に及びませんね。」
と相変わらず口は達者である。このマスターが「俺も口が上手くなったな」と思ったのはいつのときだったろうか。きっと包丁よりもずっと前ということは間違いなさそうだ。