私の祖母が秋田から稚内市に嫁に来た大正の初期、鉄道の最寄り駅がまだ数十キロ先までしか来ていなかったので、嫁入り道具などの運搬をどうしたのかという疑問から物流に興味を持ち、品川にある「物流博物館」に行った。
鉄道や自動車などが整備される前は、物の運搬は人力および牛馬を利用しており、駅逓制度のもと物流が維持されていたことが改めて理解できたが、人や牛馬で物を運ぶのは大変である。別の本で読んだのだが、江戸時代、物の大消費地であった江戸に米・みそ・醤油のほか生活物資を運ぶには、延べ何十万頭の牛馬が必要であったとのことで、各街道を通行する牛馬を想像してみてもすごいことだ。
マスターの話では、マスターの小さい頃はまだ馬に寄る運送があったようで、マスターも古い人間であることがわかる。
それはさておき、今夜はゴールデンウイーク明け最初の往訪だ。
「連休中はどちらか行かれたんですか?」とマスター。
「どこも行ってませんね、どこへ行っても混んでて高いし、それに介護もあったんで。マスターは文珍の独演会とミュージカルですよね。文珍の独演会はともかく、ミュージカルは結構値段が高かったんじゃないですか?」
「ミュージカルは1万円かな。値段は大したことはないですよ。私みたいに庶民の娯楽ですね。金持ちはやっぱりキャバクラとかじゃないですか!」
”金持ちは海外旅行”とかではなく、”キャバクラ”というのがやはり寿司竜の発想である。
そこへ若い女性が一名で来店。3名で待ち合わせの一番乗りのようだ。
「いらっしゃい。あれ?今回が2回目かな。そういえば前回お見えになったとき、勘定間違えて多くもらっちゃったんで、その分お返しします。お越しいただいてよかったですよ。お連れさんが来るまでお待ちになりますか?」
などと、連休明けでエネルギーが充満しているせいか、軽やかな対応である。
そのうち、お連れさん(男女一名)が到着し、お店がにぎやかになる。
「・・・起きたっきり老人なんで・・・」とか「・・・日本酒は飲まないんですよぉ。こう見えても未成年なんで・・・」とか、聞き飽きたつまらない言葉も、2回目来店のお客さんには受けているが、他愛のない話に笑い転げるうぶなお客さんをみるもの良いものだ。
そこへまったくうぶでない浅草橋さんが到着。
この方はミュージカルのような庶民の娯楽派ではなく、お金持ちの娯楽を日々謳歌している方だが、「僕は女が好きだけど、Hさんはキャバクラとか行かないんだよね・・・。」などと、不在のHさんを偲びながら、今夜も寿司竜の夜は更けてゆく。