先週は水曜日に往訪しようとしたが満席で入店できなかったので、今日はあらかじめ予約しての往訪である。階段を降りて行くといつも階段の曲がり角に置いてある消毒液がないので、どうしたのかなと思いながら入店すると、カウンター中程に穏やかそうな年配の紳士連れが2名のみで落ち着いている。奥は卑猥さん一団の予約席なので、いつもどおり手前の席に着座すると、換気のためドアを開け放しにしているので、「寒いですか」などと心優しい係の者は気を使ってくれるが、「自分のジョークよりは暖かいですよね」とマスターはいきなり人を寒くさせる。
ふと見ると、今夜は席を隔てるアクリル板がいつもと違う。いつものアクリル板は透明なのだが、今夜のアクリル板は段ボール色をしており、透き通っていない。先ほどの消毒液が無いことと言い何か今夜は全体的にいつもと違っているが、係の者に聞いてみると、消毒液が階段に置かれていないのは消防の指導とのことである。イザというとにに避難の妨げになるものを置いてはいけないと言うことだろう。遠く大阪の事件の影響が東京までも及んでいるのである。アクリル板については、最近床に落として割れることが多いので、アクリル板に付いている養生シートをはがさずにそのままつけているとのことである。アクリル板はカウンターからはみ出しているのでどうしても引っかけて落としやすいが、結構いい値段がするので割れると薄利の寿司竜にとっては痛いだろう。気をつけねばと気を引き締める。
そのような中で、マスターはカウンター中央の穏やかな紳士連れと会話中であるが、いつものとおり刺身のツマを海苔で巻いて差し上げると、「この海苔は旨いですね!」といいつつ、そのお客さんは「でも、自分では海苔を買ったことが無いんですよ。実家が海苔漁師だったもんで。」などとおっしゃる。マスターは、「なんで海苔漁師を継がなかったんですか?」と聞くとその方は「ああみえても海苔漁師はけっこうきついんですよ」と言う。するとマスターは「どうしてみなさん楽な方へ楽な方へと流れるんですかね。私のように人生苦労を買ってでるようではなくではだめですよ」と”活”を入れている。
楽な方へ楽な方へ流れると聞いてふとある方を思い出した。「自分はシロアリでは無い!シロアリでは無い!!」と一所懸命抵抗しながら、その疑いを拭いきれないままマレーシアへ旅立った”類似ヴィトン”の方である。あの方もマスターに随分”活”を入れられていたような気がするが、遠いマレーシアの空で元気にされているだろうか。
それはともかくとして、この寿司竜で、”活”を入れられるというのは見どことがあるということで、すでにシロアリの烙印を押されたものは活を入れられることは無く、慰められるのみである。
そうこうしていると、全く活を入れられた形跡が無い卑猥さんの一団が到着し、いつのまにか”活”とはほど遠い状況になっている寿司竜である。