今夜も5時過ぎに一番乗り。いつもはダラッとした表情で、けだるそうに準備をしているマスターが、キリッとした表情できびきびとしている。
どうしたことかと思っていると、5時半から元イケメンのOさんと別のお客様がそれぞれ女性を連れて来店予定とのことで、その準備に忙しいのである。
「お~い、あさつきあるかい?」とのマスターの掛け声に対し、「は~い、ここにあるわよ!」と珍しく係りの者もこだまのように答えている。
そんなところへ元イケメンのOさんが、女性を二名連れての来店である。さすが元イケメンだけあって、連れてくる女性もなかなかの美人であるが、着席して飲み物を注文すると、「何か嫌いなものがあれば板前に言ってねっ。」とかける言葉も優しい。
そのフレーズを聞くと「嫌いなものは、そこに板前」とついつい思ってしまうが、美人の女性陣は「とくにないので・・・」と素直である。
さらにもう一組の女性連れのお客様も到着し、マスターは大車輪の働きとなる。たまに私の前にきてケースからネタを取り出すが、その表情が引き締まっている。見慣れない表情である。
思わず「今日の表情は珍しく引き締まっていますね!」と声をかけると
「お客様のレベルに比例しますからね。悪いけど今日は真剣ですよ。昨日はひどかったけど。」などと言いながら、嬉しそうに玉子焼きを焼きに奥へ消えてゆく。
その合間にはOさんが女性陣に飲ませる日本酒を物色しに冷蔵庫まで来ているではないか。やはりイケメンと言われる方はマメなのだ。女性を喜ばせることに全力を挙げるものなのだ。
やがて、お刺身から、煮魚、玉子焼きまで出し終わり、店内が一段落したころに、品川からわざわざ回って来店してくれるお客さんが三々五々到着する。
マスターの表情がダラッとする。このけだるそうな表情になるとは、もしや昨日も来たお客様かもしれない。