原則毎週1回は行くという自分のノルマを初めて果たせず、申し訳なくも中一週おいての往訪。5時に三越前の駅から外に出るともう日が暮れており、年末の訪れを思わせる中、寒そうにコートの襟を立てて日本橋室町方面から神田駅に向かう人並みに紛れて寿司竜へ向かう。皆心なしか歩く足もせわしない。
当然一番乗りで入店すると、世間は忘年会で忙しいのか、予約のお盆もなく静かな店内である。
「昔は年末の競馬だと、枯れた芝生なんかもあって、冬を感じさせたもんだけど、いまは冬も枯れない芝を使っているから、何だか季節を感じさせなくなっちゃったね。」などと、昨日のジュベナイルフィリーズの当たり馬券をちらつかせながら、自慢げに話すマスター。
そこに電話が入って係りの者がとる。「ハイッ、ハイッ」と対応して、電話を終わった後、「お話し中すみませんが・・・」と私とマスターとの会話に割って入ろうとするので、私に用事かと思って「なんの用事ですか」と尋ねると、「いいえ、用事があるのはダーリンの方で・・」。
なんの用事かと思っていると、今の電話は年末の出前の予約だということをマスターに伝えたかったのだ。
そういえば、昔は納会や新年には、会社でも個人でもお寿司の出前を取ったもので、お寿司屋さんは年末年始書き入れ時だったのに、最近は随分少なくなったようだ。年末年始のありようも随分変わってきていることを改めて実感する。
それはともかく、係りの者が、”そこに板前”を”ダーリン(最愛の人)”と呼ぶのである。
年末年始のありようは変わろうとも、何年たってもこの二人の愛情は変わらないのだ。コートの襟を立てて歩く人たちは、是非寿司竜に立ち寄って、この熱い暑い二人を見るとよい。恥ずかしくて、暑くなって、コートを脱ぎ棄てたくなることだろう。