新年の営業初日は久しぶりの雨である。草木たちもほっと一息だろうなどと思いながら、今年の一番乗りして入口付近に着座する。予約がないのに必ず来るとの前提で置かれているHさんの一升瓶のほか、半分ほどの席が予約のお盆で埋まっている。
新年の挨拶を交わした後、おしぼりと氷が手際よく準備され、この季節に定番のぶりの煮つけ(煮大根付き)もスッと出される。旨そうである。
とそこへ、がっしりした体つきの若手が、「3名なんですけと入れますか?一名は後から来ますけど・・・」と店内を覗く。当然「ええ、大丈夫ですよ」と入店していただくが、3名だと私がちょうど邪魔になるので、中央付近に置いてあるHさんのボトルの奥側に移動する。
初めてのお客さんらしく、係りの者が食事のメニューを用意するが、「飲み物のメニューはないんですよ。」といいながら、口頭で、焼酎や日本酒があることを説明している。「じゃあ、僕は焼酎の水割りで」とか「僕は瓶ビールで」などとようやく飲み物が決まる。
そんなやり取りの間こちらは、ウイスキー水割り用の水が来ないので、耐えがたきを耐え、忍び難きを忍んで係りの者が一段落するのを待ち、若手に飲み物が渡った後にようやく係りの者に水を頼む。恐縮する係りの者ではあるが、年は改まっても、係りの者は何も改まらないのが嬉しい。
「何にしましょう。握りがいいですか?それとも何か適当におつまみをお出ししましょうか?」などとマスターが若手の対応をしているが、「でも、お客様は体格がいいですね?何かスポーツでもしてらっしゃるのですか?」などとさりげなく聞くと、「ええ、学生時代はラグビーやってました。」と若手。「どこの大学ですか?ラグビーならW大学とかM大学ですか?」「いいえ、僕はT大学です。もう一人は京都のK大学です」とのこと。
その大学名を聞き、がぜん寿司竜内のレベルがあがったような気になる。シロアリが幅を利かせて久しい寿司竜であるが、今年はカブトムシ系のお店に代わる予兆かもしれない。
やがて、奥の席に予約のお客さんが到着し、さらにミッキーさん、Hさんが当然のように来店して新年早々満席となる。ややしばらくしてさらに新たに親子連れの外人さんが来たので、その若手3人組が席を切り上げてくれる。頭がよいだけではなく、気も利くようで、良い若手だ。マスターはますます忙しいが、慣れない忙しさなので、つまの袋と間違えて、水の入った袋をもって右往左往している。
Wさんが転勤になり、寂しい新年かと思いきや、カブトムシとシロアリが入り乱れてにぎやかで楽しい新年初日の寿司竜である。