いつものとおり5時半ごろ、一番乗りで到着。奥に3名、2名の計5名の予約席があるが、Hさんやミッキーさんの一升瓶は見当たらない。
「いらっしゃい。昨日来なくてよかったですね。悶ちゃんとか数寄屋橋さんが来て大変でしたよ。」とマスターの明るい声。
「悶ちゃんが来たんですね。悶ちゃんで思い出したんですが、例の●菱UFJ女銀行員の犯罪、すごいですね。何億円分もの金塊も盗んでたらしいですね。それに東京女●医大の元理事長もなかなかです。女性も随分悪いことで世の中騒がすことになりましたね。」
「本当ですね。昔はこんなことなかったですもんね。」
「でも、これは女性が悪くなったというよりは、女性の活躍する機会が増えたからなんでしょうね。銀行でも総合職の半分は女性、いろいろな企業でも女性経営者が珍しくなくなりつつありますからね。」
「なるほど、確かにそれは言えますね。」
「でも、こんなに世間を騒がせるほど悪いことをするのはある意味では大したものです。寿司竜のお客さんではこの十分の一も悪いことができるほどの大物は見当たりませんもんね。私なんか、これまでした一番悪いことは、消しゴムを1個万引きしたことぐらいですからね。」
「盗むものがしみったれてますね。私なんか随分女心を盗んだもんですけどね!」とにやりとするマスター。
ぐうの音も出ずに詰まっていると、予約のお客さんが到着。ようやくマスターの自慢話から解放される。
2人組のお客さんは、昔の友人同士で、何十年ぶりかの再会を、この寿司竜でということらしい。そういう場面で利用されるお寿司屋さんというのはまたいいものである。
係りの者も忙しくなって来た。マスターに女心を盗まれて数十年、盗まれたことを後悔していないだろうか。