今夜も5時半に一番乗り。
「いらっしゃい!それにしても、寒いですね・・・私のキャグ以上ですねえ~。」とまずは寒い言葉で出迎えるマスター。
醤油皿や箸もしっかり用意され、おしぼり、水・氷もスッと出てくる。今夜は珍しく諸事軽快で、気持ちの良い出足である。
この調子なら今夜もマスターから教養ある話を聞けるかと期待していると、すぐに予約の二人連れのお客様が来店。今夜はお客さんの出足が早いようだ。
「お久しぶりですね。どのぐらいになりますかね?」とマスター。
「2年ぶりぐらいになるんじゃないかな。マスターもお変わりありませんか?」
「まあまあ元気です。ただ、血糖値が高いんで、ご飯の量を減らしています。それと好きなコーラもカロリーゼロのやつにして、アクエリアスもやめて水飲んでます。ご飯食べられないのはつらいですね。正月の雑煮のおもちもほんのわずかで、寂しい限りでした。」
「健康は気をつけなきゃいけませんね。商売の方はどうですか?」
「まあまあです。最近は外人さんも多いですね。どうも来店した外人さんの評判が良いらしく、私のことをコメディアンなんてほめてくれてるらしいんですよ。なので、もっと外人さんを呼び込む広告出しませんかなん売り込みもあるんですが、これ以上外人さんが増えても困るんで、そのままにしています。ただ、日本人の客層が今一なんで苦労してますがね。」とチラッとこちらを見ながら言う。
「コメディアンと書かれたんじゃダメじゃないですか。やはり味とか腕をほめられなきゃあね。」などと久しぶりのお客様との会話のテンポが良い。
すると電話が鳴る。これはHさんではないかとピンとくるが、ちょうどお客様に飲み物をお出ししている最中の係りの者は、急いで電話を取りに戻るでもなく、悠然としている。電話が切れてしまうのではないかとハラハラしていたが、慌てる様子もなくようやく電話に戻って受話器を取ると
「ああ!こんばんは。電話に出るのが遅くなってすみません。・・・ええ、大丈夫ですよ。」と全然済まないと思っている動きではないが、一応お詫びから始まっている。
相手はやはりHさんのようだ。今夜は仕事でWさんが上京しているので、もしやお店に来ていないかどうかなどとやり取りしていたようである。
さらに2名の予約のお客様も来店し、だんだんにぎやかになる店内。明日はミッキーさんの予約が入っており満席、明後日も満席とのこと。なかなか良い傾向だ。
「満席の場合は、得意の玉子焼きを事前に作っとかなきゃダメですね。」と声をかけると
「何を言っているんですか!玉子焼きは焼き立てが美味しいんですよ。ポリシーは美味しい焼き立てを出すということですよ!」
ポリシー!
このお店で、”そこに板前”からこの言葉がでるとは思わなかった。今夜は出足から寒いとは思っていたが、ますます寒くなってくる。誰かこれを温めてくれる人は来ないだろうか、そんな器量のある方の来店が待たれる寿司竜である。