昔の同僚との面会に随分久しぶりに六本木ヒルズに寄り、そこから徒歩で神田方面に向かう。六本木通りを少し行くと左手に懐かしい喫茶店アマンドがあった。50年ほど前に上京して以来変わらないピンクの店だ。周囲のビルは随分変わって当時の面影はほとんどないが、アマンドだけは変わらないというのがすごい。
さらに六本木通りを溜池山王方面に下ってゆく。その沿道も以前あった建物はほとんどなく、バカでかい建物に変わっている。昔勤めていた会社があったアークヒルズを抜け、霞が関ビルを横目で見ながら虎ノ門へ。虎ノ門も交差点右側には大きな建物が建ち、その奥側や交差点左側は解体中なので、また大きな建物が建つのだろう。昔の一杯飲み屋があったような路地は消滅し、何だか味気ない街になり寂しくなるが、ちょうど5時になったので新橋から電車に乗り、寿司竜に向かう。
到着すると、店内には元イケメンのOさんの予約席のほか、数席に予約のお盆が置かれている。Hさんやミッキーさんの予約は入っていないようだ。
「ドバイでダノンが来ましたね。Hさんは自分の持ち馬なんでダノンは当然買ったんですが、結局当たったていう話は聞こえてきませんね。」
「今度のゴールデンウイークはミュージカルを見に行くことにしましたよ。すごいでしょ!少しは高級なこともしないと、いつもパチンコと競馬じゃしょうがないですからね。」
「広末がやっちゃいましたね。盗んだものを隠せい剤なんてね。」と、マスターが畳みかけてくる。
六本木のアマンドほど長くはないが、ここ寿司竜も開業以来三十有余年、このどうしようもなさは変わらない。いや、変わりようがない。
しかし、今となってはそれが価値のあることなのかもしれない。