5時15分頃到着。ズラリと予約のお盆が列ぶ中手前から2番目に着座すると、「今夜はいいシンコがあるんですよ。ほらっ、見てください。食べますよね! いやあ、久しぶりに仕事したなあ。」と仕事をやり切った表情で語るマスター。
シンコはとても小さくて包丁さばきが大変なうえ、塩や酢の加減も難しい。シンコのおいしさを十分生かすのは、寿司職人の腕にかかっているといえるネタだが、高級寿司店でもいただけるかどうかというそんなネタを、さりげなくではなく大げさに出すのは寿司竜らしい。口先だけで勝負しているように見えて、実は料理人としての腕もまんざらではないと見直す。
しかし、シンコの仕込みでエネルギーを使い切ってしまったのか、マスターは階段の踊り場でたばこを吹かしてまったりとしている。
その間、係の者と会話。
「マスターは飛行機ダメだって話ですけど、新婚旅行なんかどこ行ったんですか?」と流石に新婚旅行は飛行機嫌いとか言ってないだろうと思って聞く。
「新婚旅行はそのへんの温泉みたいなどことですね。」とさりげなく答える係の者。そのへんの温泉みたいなところで、どのような時間を過ごしたのか。
「その前に、結婚式はどこでやったんですか?」
「サレジオ協会なんですよ。キャンセル待ちかなんかで日程決めたんで結構安く上がったんですよ。」
と、式場はおしゃれだが、式場決定経緯はシロアリ的である。
そんな会話をしていると、やがて昔のイケメンのOさん、続いてガタイのよいビッグモーター系のOさんの一団、さらには馬主としての投資センスがWさんの100倍は上手いと伝説となっているKさんが来店。
Kさんは以前から噂は聞いていたが、初めて隣り合わせになる。馬主で大当たりということから年配の重役然としている方かと想像していたが、俳優の長島敏之のような爽やか系である。
そんな中、お客さんもフルゲートに近くなってきたので、いよいよマスターが得意の玉子焼きを焼くのかと思って聞くと、今夜は玉子焼きを焼かないという。
シンコの仕込みで疲れ切っているのだ。玉子焼きが焼けないほどネタの仕込みに打ち込んだマスター。飛行機に乗れないマスター。「明日は休みです。楽しみしている競馬があるから、今夜一日頑張って!」と思わず心の中で声援を送りつつ、上手いシンコをいただく夜である。