今夜は少し年配の方々の同窓会のような集まりである。ロマンスグレーの紳士然とした男性陣と品良く微笑むご婦人の方々と10名ほどが談笑している。良い雰囲気であるが、加えて当然のようにHさんもいて満席である。
今夜はマスターが張り切っている。いつもは仕入れない車海老を仕入れて、「ほらっ!生きがいいでしょ!!」などと車海老を指先ではねて踊らそうとしている(がエビは踊らない)。
その皆様に最初のお刺身の盛り合わせを出すのに時間がかかるが、それはやむを得ないのでじっと待っている。ようやく一通り出し終わったので、ひとつ握ってもらおうかと思っていると、今度はマスターは玉子焼きを作るために奥に引っ込み、なかなか出てこない。
「また玉子焼きですかぁ」とため息交じりにママにこぼすと、「腕の見せ所がこれしか無いのよね」と優しい言葉である。そうだよなぁ、一生懸命玉子をやいてるんだよなぁ、とそのけなげな姿を見て涙腺が緩む。
でもよく考えてみるとお寿司屋さんで焼きたての玉子焼きを食べられるのは、すごく贅沢なことである。「焼きたての玉子焼きを食べられるお寿司屋さんに行こうよぉ」となごり寿司の世界へいざなえるような気もする。
今度口説き文句の切り札として通じるか試してみよう。