今夜は歯医者が予想よりも早く終わり、5時半前の往訪である。奥からズラッと予約のお盆が並び、手前の2席が空いていて、一番手前に着座する。奥は卑猥さんの一団、その手前の2席が超絶美女2名の席とのことだが、何しろ緊急事態が明けてからお客様が押し寄せており、予約をしないと入れない状態が続いている。残る席は1名分のみであるが、他のお客様はまた到着して居らず、最初の話題はマスターの好きな落語の話である。
「人間国宝の柳家小三治がなくなりましたね。私は落語はよくわからないんですが、さぞ上手いんでしょうね」
「人間国宝ってのは、上手いだけでは駄目で、長く第一線で活躍しないとね。もちろん人望もあってね。」
「では、マスターと同じですね。包丁は上手く、寿司も旨く、口は達者で、長く活躍し、しかも皆に慕われ尊敬されている。マスターは人間国宝級ですね!」と心に思ったことを言うと、のれん奥の厨房で係の者が”クスッ”と笑っている。
そんなマスターへの最初の注文は、ひらめとカツオの刺身である。マスターが「おーい、アサツキ」と係の者に声をかけるが、係の者があたふたしている。「さっき買ってきたアサツキどこへやったかしら」とあるはずのアサツキが見つからない。ここ寿司竜では、あるはずの材料がしょっちゅう無くなる。食べたいものが食べられず、あきらめた頃に見つかることがままあるのだが、今回は間もなく見つかって、事なきを得る。広いお店なので、きちんと整理をしておかないと、どこに何があるのかすぐわからなくなるので大変だ。
そこへ、精悍な表情の紳士が来店である。
「ああ!Kさんいらっしゃい。お久しぶりです。」とマスターの嬉しそうな声。古い常連さんのようである。
「予約なしでも大丈夫かと思ったけど、満席かな?」などと心配するが、最後の1席があったのでそこに着座される。
このお客様は、山奥など工事が困難な場所の施工にはなくてはならないお仕事をされている会社の社長とのことで、羽振りも良く、シロアリ系ではなくカブトムシ系の方と言えそうである。稼いだお金は自分の持つ10tトラックのデコレーションや、ハーレーの意匠改良にガンガン使っていると言うことで、エネルギーがあふれている。地方に拠点があるので、数ヶ月に一度しか東京には来ないらしいが、是非来店の回数を増やしていただき、このエネルギーを寿司竜に注入して欲しいものである。
そうこうしていると、卑猥さん軍団、超絶美人が来店で、賑やかな店内となる。マスターも口よりも手が動く状態になったのを見届け、このカブトムシ系の方に超絶美人を託して、退店である。