5時半ごろの到着。カウンター奥に元イケメンのOさんが佇む。
最初はやはり先週G1の大穴(単勝2万円、馬単30万円)の話題からである。
「先週のレースは随分大穴が来ましたね。お客さんの中で誰か取った人はいないんですかね」
「いつもと同じですよ、言うまでもありません。」
「やっぱりそうですか、聞くだけ無駄でしたね。でもマスターはテレビ見てましたか?騎手の津村がG1初勝利で涙ぐんでましたもんね。ルメールなんかと違って苦労した人の涙は感動します。」
「涙は涙はHさんと同じです。」
「いやあ、Hさんは涙も枯れて出ないでしょう。」
「それもそうですね。」
などと、ひとしきり競馬とHさんの近況報告が終わると、Oさんの前へ行き
「いやあ、静かな出足ですね。でもこの静寂もあと1時間ですよ。ミッキーさんがお見えになります。」
「ミッキーさんの声はよく通りますからね。」などと今度はミッキーさんの話題だ。
やがて、ミッキーさんが到着し、確かにお店の静寂は破られる。Oさんも懸命にしゃべるのだが、すべてはミッキーさんの声にかき消され、店内で聞こえるのはミッキーさんの声一色となる。
すると、そこへ、外人の若い女性が一人で来店。
「Where are you from?」とマスターが流ちょうな英語で聞く。
「ロシア!」と彼女。
おお!と心なしか店内がどよめく。しかし彼女が寿司を注文をするのに翻訳ソフトを使おうとするのか、スマホをいじりつつ首をかしげている。このところ店内のアンテナが故障なのかネットが使えず、スマホが利用できないのである。困った顔をする彼女。
すると、元イケメンのOさんがツカツカと寄ってきて、英語で彼女に話しかける。
そう、Oさんは英語ができるのだ。元イケメンというだけではなく、このような場所で、若い女性と英会話ができるとは恰好がよい。寿司竜のお客さんには似合わない光景であるが、お客さんもシロアリばかりではないということだろう。
そのロシアの彼女は、Oさんのフォローで一通りお寿司をいただいた後、係りの者に「ジャパニーズ スープ!ジャパニーズ スープ!!」などと味噌汁を勧められ、美味しそうにいただいて、やがて出てゆく。
入れ替わりにHさんが到着する。晴れやかな非日常の世界は瞬く間に終わり、またいつもの日常にもどる寿司竜である。