5時過ぎに到着。「営業中」の看板はまだ掛かっておらず、照明のついていない階段を下りてゆくと、係りの者が予約のお盆のセッティングに忙しく働いている。一番手前から2つ目に着座し、係りの者が準備を終えて水割りセットが出てくるのを待っていると、外人さんのカップルが来店。今夜もいきなり外人さん攻勢だが、生憎予約でほぼ席が埋まっており、マスターが「Oh!イクスキューすみー!フルテーブル!Only one hour OK?」と身振り手振りも交えて頑張っている。たぶん、「予約で満席なので、予約のお客さんが来るまでの1時間なら大丈夫ですがどうなさいますか?」ということを言っていると思われるが、外人さんは苦笑いののち、入店せずに去ってゆく。それにしても、この暗い階段を下りて、回転寿司でないすし屋に入ってくるとは、本当に最近の外人さんの度胸には驚かされるが、やはりこれもGoogle Mapの効用で、どんな店か事前にわかっているからなのだろう。
そんなことをしているうちに係りの者の準備も終わり、水割りセットとお刺身の盛り合わせが用意される。するとマスターが
「聞いてくださいよぉ。先日いいことがあったんですよ。55年ぶりに友達が訪ねてきてくれたんです。ええ、中学校の同級生です。彼は私と違って優秀で、北大行ってそれから確か外資に勤めたのかな。ほんと久しぶりでした。でもうちの店を気に入ってくれて、今度同級生を集めてここで一杯やろうとセッティングしてくれたんです。平日じゃ落ち着かないからと12月の土曜日にやることになりました。でも嬉しいですね。何しろ私はクラスの嫌われ者で誰も懐かしんでくれる友達などいないと思っていたんですが、意外とそうでもなかったって。その夜はうれし涙でベッドを濡らしました。」
と興奮気味である。確かにシロアリには慕われているマスターだが、やはり級友に嫌われていたわけではないとなれば、涙で枕を濡らすのもうなずける。
そんないいことがあったせいか、今日のマスターは動きが軽快である。やがて一人で入店してきた外人さんにもサービスがよい。「どこから来たんですか?Ohイングランドですね!握りは何個食べますか?8ピース?or12ピース?」などと聞きながら、頼まれてもいないのに外人さんのスマホを預かって写真を撮ってあげたりしているが、私の方を見ながら「英語大したもんでしょ!」とウインクまでする。
そこに予約済みのOさんが到着し、マスター並みに上手い英語で外人さんと会話を楽しんでいる。今日も国際的な寿司竜だが、そこに先ほど入店できず去っていった外人さんのカップルが戻ってくる。
「あれ、さっきの英語通じなかったのかな。1時間だけならと言ったつもりが、1時間後には大丈夫と思ったのかな」などとぼやくマスターであるが、せっかく戻ってきてくれた外人さんである。何とか皆で席を譲り詰めあって、入店いただく。
Oさん並みと自慢するマスターの英語力も結局この程度であるが、いいのである。それでこそ寿司竜なのだ。